「便宜を図る」使い方は?「便宜」の意味を例文付きで丁寧に解説します

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テレビやビジネスシーンでよく見聞きする「便宜を図る」という言葉はどういう意味なのか。敬語として使えるか、メールでお礼を言いたいときにふさわしいのかどうか。今回は「便宜」と「便宜を図る」の具体的な使い方を、例文とともに解説していきます。

目次

「便宜を図る」の意味

「便宜」という言葉は、「見聞きをするからなんとなく雰囲気はつかめるけれど、きちんとした【意味】を説明できるかと言われたら少し悩む」というような位置づけにあるのではないでしょうか。ここではまず、「便宜」そして「便宜を図る」の意味を確認していきましょう。

「便宜」について

メールなどをする場合にはきちんと変換されますが、もし「便宜」と手書きするときに気をつけたいのは、「宜」の字を間違えないようにすることです。宣伝の「宣(せん)」ではなく、うかんむりに「且」と書きます。「よろしく(宜しく)」と同じ字です。

その「宣」と間違えるのか、以前便宜を「びんせん」と読んだ人がいたそうですが、手紙を書くときの「びんせん」は「便箋」ですのでご注意ください。

現在では「便宜」と書くと「べんぎ」と読むのが普通ですが、かつては「びんぎ」と読まれることが多かったようです。時代によって意味の違いがあるのか比べてみましょう。

古文で見られる読み方・使い方

便宜【びんぎ】

意味例文(古文)現代訳
都合のよいときに「その事かの事、便宜に忘るな」(徒然草)それもあれも、都合のよいときに忘れずにね
よい機会「便宜あらば告げられよ」(落窪物語)よい機会があれば知らせてください
手紙、たより「便宜・おとづれの声も聞かねば」(歌念仏:浄瑠璃・近松)手紙や来訪の声もないので

現在はほとんどこちらの読み方・使い方

便宜【べんぎ】

意味例文
都合のよいこと。便利であること。これを○と説明することもありますが、便宜的なものと考えてください。
その時々に適応した処置。特別なはからい。便宜を図っていただき、助かりました。
たより。音信。「娘方より便りあらず、其方の方へは便宜ありしや」浮世草子(1706年)

こう並べてみますと、一応「手紙、たより」の意味は残っていますが、現在ではこの使い方をするのは少ないようです。

「便宜」に似ている言葉

では「便宜」のイメージがつかみやすくなるように、ここで類語をいくつか取りあげてみます。
 

 (意味)(例文)
割の良いある特定の終わりを達成するために適当な「割の良い」商売に誘ってもらった
重宝役に立ち便利であることこのツールは原稿チェックの時に「重宝」する
好都合適当で都合の良いことそう言ってもらえれば「好都合」だ
簡便簡単で便利なこと。手軽なこと。この家具はとても「簡便」にできております

「便宜」に似ている言葉はこのほかにも「有益」「コンビニエンス」など、色々あります。ここに書いた言葉はどれもよく聞くものですから、使い回すのに便利です。とくに、「重宝」などはお礼の言葉にもよく使われます。

「便宜」を使った言葉

「便宜」という言葉は、単独で使われることはそれほど多くありませんが、「便宜上」または「便宜的」という言い方は使いやすく、よく聞く表現です。
 

便宜上意味そうしたほうが都合がよいという事情。
例文○○のことを、便宜上××と呼びます。
便宜的意味その場の都合がよいように、とりあえず物事を処理すること。
例文急ぎの用事だったので、メールで便宜的に済ませました。

まず思いつくのは「便宜を図る」

そのような中で「便宜」を使う言葉としてよく挙がる「便宜を図る」ですが、使い方や例文は次章以降で書きますので、ここでは意味だけを押さえておきましょう。
 

便宜を図る相手にとって都合よく物事が進むよう、特別なはからいをすること
相手の利益になるような行動をとること

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こんな言葉もある

普段はあまり見ませんが「便宜」を使ったこのような言葉もありますので、ご紹介します。
 

便宜主義(べんぎしゅぎ)根本的な処置を考えずに、そのときの都合によって物事を処理する態度。ご都合主義。
便宜図法(べんぎずほう)方位図法・円錐図法・円筒図法で現れる距離・面積・角・形などが、目的に応じて正しく表現できるように変形した図法。
便宜置籍船(べんぎちせきせん)船主が船籍を、税金や船員の資格や労働条件などの面で有利な外国に登録している船。

「ご都合主義」という言葉なら「便宜主義」よりも耳にする機会はあるでしょう。「便宜図法」というものには、ハンメル図法、ボンヌ図法、多円錐図法、多面体図法などがあります。

「便宜置籍船」の代表的なものには、タンカー(石油輸送船)が挙げられます。船籍の税金を安く済ませるなどの理由で、外国に便宜的に置かれる船です。船籍を置くところとして選ばれる国に、リベリア、パナマなどがあります。

「便宜を図る」の使い方

それでは、「便宜」という言葉の全体像がつかめたところで、「便宜を図る」はどのようなときに使えるのか。また、敬語として使えるのか、メールやお礼の際にふさわしいのかを見ていきましょう。

「便宜を図る」のイメージ

本来、いままで書いたように「便宜」という言葉そのものには悪い意味はありません。言葉の意味だけを考えれば、相手が仕事をしやすいようにフォローするのも「便宜」と言えるでしょう。

しかし、「便宜を図る」という言葉を使うときの背景を見ると、便宜を図ることで「見返りに○○をしてもらった」というように、交換条件を伴うことが多いのです。その代表格として、「便宜を図る」という言葉とともに裏口入学や政治家の贈収賄などの悪い事件が多く取りあげられるため、この言葉に対するイメージは悪くなりがちです。

ただ、「便宜を図る」という言葉は悪いイメージばかりではなく、客観的な説明などで使われることがありますので、状況に合わせて言葉を選べるようになるとよいでしょう。

「便宜を図る」とのつきあい方

ここでは「便宜を図る」の言葉を言い換えたほうがいい場合と、メールなどでそのまま使って差しつかえない場合を挙げます。きちんと区別して意味を覚えていれば、使いどころにも迷わずに済みます。

言い換えたほうがいい場合(敬語表現)

マイナスのイメージで使われる印象がありますから、たとえ敬語表現にしても「便宜を図る」という言葉を目上の方に対するお礼として使ったり、メールで感謝を伝える際に用いるのは避けたほうがよいようです。

「便宜を図っていただき、ありがとうございます」と聞くと、お礼であり、敬語を使ってはいるものの、相手がその言葉に悪いイメージを持っている場合、かえって気持ちを害してしまうことになりかねません。

このようなときは自分から積極的に使わず、状況に応じた敬語に言い換えるのが無難でしょう。

そのまま使える場合

一方、特定の相手に対するお礼などではなく、客観的に淡々と説明するようなときや、ある物事を中立的な立場で話したり、メールなどで話題にするような場合には「便宜を図る」を使っても差しつかえありません。

「便宜を図る」の例文

この章では、対象別・場面別に応じた例文をいくつか紹介していきます。ニュースなどで聞くような表現や、ビジネスでの使い方もとりあげます。

「便宜を図る」を使った例文【対象別】

公共工事の入札において「便宜を図る」見返りに、B市長はA社から多額の政治献金を受け取っていたことがわかった。
新卒採用担当のCさんは上司から、採用選考の際には、役員の姪に「便宜を図る」ようにと頼まれた。
地元の新聞社に対して「便宜を図る」代わりに、自分に関する記事は良く書いてくれと彼が言った。

ところで「便宜供与」という言葉がありますが、これははじめのケースのような政治絡みのことや法律関連の話で使われます。「便宜供与」は、「相手に物や利益を提供するなど、特別なはからいをすること」という意味で、一般的に使われることはそれほどありません。

「便宜を図る」を使った例文【場面別】

利用客の「便宜を図る」ため、かつて夜7時で閉店していた店が今では24時間営業となった。
施設のバリアフリー化をして、高齢の利用者たちに「便宜を図る」。
番号案内をするのは、電話を使う人の「便宜を図る」という目的があった。

「便宜」と「忖度」の違い

「便宜」に近い使い方をされている「忖度」というものがありますが、「便宜」と「忖度」は似ているようで違う言葉です。ここで、「忖度」との違いにも少し触れておきましょう。

行動をするかしないか

忖度との違いがわかりやすいよう、便宜の意味も並べます。
 

 (読み方)(意味)
便宜べんぎ相手にとって都合のいいように処置をすること。
忖度そんたく人の心情をおしはかること。推測。推量。

「忖度」が広まる原因となった【森友学園問題】の影響か、この言葉には「自分より立場が上の人間に対し、気持ちを察して媚びる」という印象がついてしまいましたが、本来は上のようにシンプルな意味です。

「便宜」は、処置をする行動までをその言葉の意味に含みますが、「忖度」は相手の気持ちを思うこと、察することがその意味の中心となります。

ですから「○○に便宜を図った」と言うべきところを、「○○に忖度した」とは言わないように気をつけましょう。

「忖度」の使い方【例文】

作者の意向を「忖度」せずに小説がドラマ化された結果、まるで別の作品になってしまった。
病に倒れた父に「忖度」し、大学進学を諦めることにした。
いつも通っているバーのママは、客のようすを見て「忖度」できるひとだ。

「忖度」という言葉も、もともと日常会話向けのものではないこともあり、面と向かった相手に言うよりは、どちらかといえば状況説明をするのに適しているようです。

「便宜を図る」の類語

では最後に「便宜を図る」の言い換えや類語を挙げます。上司や目上の方に何かをしていただいたお礼を言いたいとき、またはメールをしたくても「便宜を図る」の代わりにどう言えばいいか思いつかないというときに、こちらをご参考ください。

類語表現のいろいろ

「便宜を図る」をあえて敬語に直すと「ご便宜を図っていただく」のようになりますが、目上の方にお礼を言うときには、もっと言いやすく丁寧な印象を与える言葉がありますので、下に書き出しておきます。

【お礼メールなどの敬語表現】

おかげさまでお取り計らいいただき(取り計らう)
ご配慮くださり(配慮する)ご手配くださり(手配する)

また、敬語ではありませんが、一般的には次のように言い換えられます。

【ほかの同義語・類義語】

特別扱いをする仲介をする
融通する用立てる
口利きをする斡旋をする

「特別扱いをする」や「仲介をする」などは、普段の会話やメールでも比較的使いやすい言葉です。

類語の使い方【例文】

これまでに見てきた類語を使った、それぞれのケースにおける例文を書いておきましょう。

【使い方1・お礼メールなどの敬語表現】

・「おかげさまで」取材も順調に進み、記事ももうすぐ仕上がりそうです。
・このたびは「お取り計らいいただき」誠にありがとうございます。
・そこまで「ご配慮くださり」恐縮です。
・旅先ではいろいろ「ご手配くださり」、ほんとうに助かりました。

【使い方2・ほかの同義語での例文】

・先輩に「口を利いて」もらったので、いいバイト先を見つけられた。
・今月の生活費が厳しいと言ったら母がこっそり「用立てて」くれた。
・あの人が「仲介して」くれたので、お互いに満足のいく結果を得られた。
・彼はいつも彼女に「特別扱いをする」が、気にも留められていないようだ。

「便宜を図る」という言葉は頭の中に入れておく

「便宜を図る」という言葉は、大きく分けてこのように捉えることができます。
 

・必ずしも「便宜を図る」には悪い意味ばかりはない。中立的な表現をするときや、説明文で使うには差しつかえない。
・しかし、「便宜を図る」は悪い事件を連想しやすい言葉であるため、相手にお礼を言う、またメールを送る場合には、状況に応じたほかの言葉を敬語に言い換えたほうがよい。

普段はあまり使う機会がない言葉でも、意味を覚えておけばお礼をする相手にあわせた敬語に直せますし、状況に応じた言い換えができます。いざというときのために、頭の中には入れておきましょう。

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